最近、タイに10年以上住んでおられる方とお話する機会がありました。
その人は、タイ以外にも色々な国を旅されていて、ラオスにもよく来られているそうで。
アジアのいろんな国で、路上の犬たちの、犬らしい表情を写真にとっている方です。
その人と話していて、ふとした拍子に、「言葉」の話になりました。
きっかけはその人の発した質問
「最近のラオス人の若者が話す言葉は、タイ語化してたりするの?」
というもの。
ビエンチャンにいると、ふとタイ語が聞こえてくるときがあるんだそうな。
それをきっかけに、フェイスブックで見られる言葉とか。
インドの話とか。
色々話が広がっておもしろかったです。
その中でしみじみ思ったのが、
「言葉って生きているんだな」
ということ。
今日はそんな小話をば。
ラオス人のSNSで飛び交う様々な表記・言葉
ラオス人は他の多くの国の例にもれず、フェイスブックが大好きです。
長くラオスに住んでいると、当然ラオス人のフェイスブック友達が増えるわけですが……。
そこで飛び交う言葉の多様さには、目をみはるものがあります。
例えば。
1.ラオス文字で書かれるラオス語
これは当然ですよね。
ラオス人ですから。
でもね、意外とこの割合が高くはないのです。
ここ数年じゃないでしょうか。ラオス語の投稿が増えてきたのは。
2.タイ文字で書かれるラオス語
これは、以前の記事「ラオスのタイ語事情」でもお話しましたが、ラオスでは最近まで、ラオス語入力のできる携帯電話がほとんどありませんでした。
それでどうするかというと、似た言葉であるお隣の国・タイの文字を借りてきて、ラオス語風に表記するというもの。
ここ3-4年で、ラオス語入力のできるスマートフォンがぐっと普及してきましたが、それでも習慣的に、タイ文字を使う人はまだまだいます。
きっと、次の世代の若者がもっと当たり前にラオス文字を使うようになるにつれ、いつかは消える、「過渡期」の現象なんじゃないかと思っています。
3.タイ文字で書かれるちょっと怪しいタイ語
ラオス人は、タイ語の投稿も好んで読み、シェアします。
タイ語のほうが、様々な情報にアクセスできますからね。
そうすると、ラオス人のフェイスブックには、タイ語と、それを真似て書いたタイ語風の投稿もかなり見られます。
写真の、上の矢印のやつは、ラオス人が書いた怪しいタイ語。
下はちゃんとしたタイ語(タイの記事なので)
これは、「ラオスでの情報の少なさ」という状況が改善されない限り、まだまだ、今しばらくは続くことだろうと思います。
4.英語
これは日本でもあることですが。
普段英語を使う人、外国人の友達が多い人は、しばしば英語の投稿もします。
5.モン語
ラオスの人口の約1割近くは、「モン」という少数民族だといいます。
モン語では、英語のアルファベットを使った表記が確立されていて、ラオスにいるモンの人も、多くがその書き方を習得しています。
モン語って、例えばこんな感じです。
モンの友達の投稿やコメント見ていると、圧倒的に「モン語」の登場頻度が高い。
他民族国家ならではですよね。
6.タイ文字あるいはラオス文字で書かれるカム語
さらに、他の少数民族「カム(クム)」の人の場合、彼らの言葉には書き言葉がありません。
そうすると、普段の投稿はラオス語のことが多いのですが、それでもたまに、タイ文字やラオス文字を使ってカム語を表記した投稿やコメントも見られます。
ますますカオスですね。
私の友達の範囲ではこのくらいですが。
たぶん、もっともっと多様なんじゃないかと思います。
ちなみに、冒頭でお話しした方はインドにもよく行かれるそうなのですが。
タミル人のフェイスブック投稿にも似たような現象がおきていて、
「タミル語の投稿」
「英語の投稿」
「アルファベットを使ったでも英語じゃない謎の言葉の投稿」
が入り混じっているそうな。
多くの言葉が公用語になっていて、様々な言葉を話す人が暮らしていると、そんな風になるのですね。
いろんな流行語・ネットスラングも
1.チュアットとチェップコー
去年ラオスの、主にフェイスブック上で流行った言葉に「チュアット ຈວດ」と「チェップコー ເຈັບຄໍ」という言葉があります。
「チュアット」は「ビールを飲むこと」、日本でいう「ぷしゅる」みたいな感じ。
その言葉自体の意味は、よくわかりません。
「ムーレーン・チュアット・ユーサイ(今夜はどこで飲む?)」みたいに使います。
「チェップコー」は直訳すれば「のどが痛い」という意味なのですが、あんまり多くを語りたくない、ノーコメントみたいな意味で、「ボワオラーイ、チェップコー」と使います。
知らないと意味不明です。
2.2人称として使う3人称の言葉「プン」
ラオス語で、「彼・彼女」を意味する比較的丁寧な言葉に「プン ເພີ່ນ」というものがあります。
これを、最近の若者はなぜか「あなた」という2人称的な意味で使う。
本来なら「チャオ・デー(あなたは?)」というところを「プン・デー」というように。
何なんですかね、この使い方。
3.冗談っぽく言いたいとき、タイ語を使う
さらに、特に若い世代は、わざとタイ語も使います。
例えば、「わかった!」とかいうときに、わざと「カップ・ポム」とか言ってみたり。
「ありがとう」っていうときに、「コップン・カー」って言ってみたり。
冗談めかして言っているようなときですね。
冒頭の「ラオス人の若者の言葉はタイ語化しているのか?」
という疑問ですが。
これは、イエスであり、ノーでもあると思います。
単語レベルでいうと、タイ語化している部分は、あります。
でも、そうでなくて、本人たちも自覚的に、遊びで使っているだけのこともある。
真面目な話をするときは、みんなやっぱり、普通にラオス語を使いますね。
4.なんでも略しちゃう
ラオス人は、とにかく言葉を略すのが好きです。
日本人もそうですけど、それに負けないくらい。
もともと、主語も、目的語もどんどん略しちゃう言葉なのですが。
ワッツアップなどメッセージアプリでは、その傾向が強く表れています。
例えば。
「キン・カオ・レオボー ກິນເຂົ້າແລ້ວບໍ່(ご飯食べた?)」→「ກ ຂ ລ」
「ヘット・ニャン・ユー ເຮັດຫຍັງຢູ່(何してるの?)」→「 ຮ ຫ ຢ」
てな具合に。
他にも。
最近、英語の「オーケー」という言葉が市民権を得てきています。
ラオス語で「オーケー ໂອເຄ」と書くのですが。
この頃は、それさえも略しちゃって「ケー ເຄ」とかいう。
もはや「オーケー」ではない。
インフルエンサーはどこにいるんだ!?
疑問なのは。
こういう流行言葉とかネットスラングって、一体どこが発信源なんだろう?
ってことです。
自然発生的なものもあるだろうけど、「チュアット」とか誰かが使い始めないと、流行らないし。
気になります。
芸能人とかほとんどいないラオスのこと。
フェイスブックのどこかにいる、一般人なんだと思うんですが。
10年後には、どんな姿になっているのか
ラオスは今、社会が急激に発展していて、過渡期にあると思います。
インフラが発達し、様々な外来文化もどんどん受け入れていっています。
10年後のラオス人のネットの世界をのぞくと、どんな風になっているんでしょうね。
とにかく。
社会が変化するにつれ、生き物である言葉も変化していく。
そんな様がありありと感じられて、とってもおもしろいです。
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