ラオスに滞在したことのある人なら、「バーシー」という儀式について、耳にしたことがあるのではないでしょうか。
長く住めば、一度は参加する機会があるというくらい、ラオスならどこでも一般的に行われる儀式です。
正式には「バーシー・スー・クワン」といいます。
ラオスの人は「魂がしっかりと身体と結びついている」のが、健全で健康な状態であり、魂と身体の結びつきが弱くなると、病気になったりすると考えます。
そこで、折々の節目に、「バーシー」と呼ばれる儀式をします。
その儀式の中で、綿の糸を手首にまく「マット・ケーン」をして、魂と身体の結びつきを強め、健康と繁栄を祈ります。
たぶん、仏教が浸透する以前の、精霊信仰的な考えから来ているんだろうなと思います。
年末にこのバーシーに参加する機会があって、そのことについて書こうと思っていたら。
その後農村でも参加することになりまして。
そっちの方がおもしろそうだなと思ったので、今回は農村での儀式の話を書きます。
山奥の村で「魂の儀」
この年末年始、ラオス北部の山村に数日滞在していました。
こんな感じの、谷川沿いに山が連なる地域です。
その村で、長年お世話になっているおうちの人が、里帰りしていた子どもたちと私も含めて、健康と繁栄を祈る儀式をしてくれました。
この村では、その儀式のことを「バーシー」ではなく、「ヘット・クワン」と言います。
「ヘット=する」、「クワン=魂」で、直訳すれば「魂の儀」とでもいうんでしょうか。
早朝からそのために、家の人たち総出で準備をしていました。
ニワトリを2羽しめ丸ごとゆでて、お米や酒とともに、お供えに。
「パーカオ」と呼ばれる儀礼用の台。
棒にくくりつけた白いものは、手首に巻くためのたくさんの糸。
また、前々から自家製のつぼ酒も用意されていました。
もち米から作られたどぶろくのような醸造酒で、長い竹のストローをつぼに直接さして飲みます。
ストローに刻まれた模様。
やがて準備が終わると、招かれた人も招かれていない人も、ぼちぼち人が集ってきます。
ひとり少しずつ、お金を供えるのがきまり。
豊かな村ではないので、ひとり2000キープ(約30円)とか、そのくらいです。
額よりも気持ち、ということでしょう。
まずはみんなでお祈り
村の主な面々がそろうと、儀礼が始まります。
儀礼用の台「パーカオ」を囲んで、みんながそこに指先を触れます。
儀礼の進行役をつとめる年配の人がいて、儀式の中心となる人の魂へ向けて、祈りの言葉を唱え始めます。
みんなもそれに合わせ、口々に唱和します。
悪い霊を払い、健康と繁栄を祈るような決まり文句があるようなのですが、私には半分くらいしかわかりません。
新年だったこともあり、今年がいい年になりますように、って言葉も聞こえました。
あとは、長生きしますようにとか、お金持ちになりますようにとか、わりと俗世的です。
手首に糸を巻く「マット・ケーン」
お祈りが終わると、みんな各々に糸をとります。
そして、健康や繁栄を祈る言葉とともに、儀式の中心となる人の手首に、糸を巻いていきます。
わらわらと巻いていく。
けっこう無秩序です。
巻いてもらった糸。
3日はとっちゃだめだと言われます。
再びお祈り
その後はまた台を囲んで、器に入ったお米や、犠牲にしたニワトリに対しても祈りの言葉をささげます。
そして、ニワトリの肉をご飯とともに、少しずつ人々に分けていきます。
殺したニワトリの命を分けてもらう、という感じなのでしょうか。
ありがたくいただきます。
さらに、ひとり2杯ずつ、お酒をもらいます。
1杯だと縁起が悪いといい、必ず2杯飲まされます。
焼酎のことも多いのですが、今回はビールでした。
後は飲んで食べてうたう
これで儀礼は終わり。
台は片付けられ、参加した人全員に酒と料理がふるまわれます。
つぼ酒も、年長の人から順に、ストローで飲んでいきます。
今回のお料理。
小さな農村のこと、そんな派手な料理はありません。
鶏のゆで汁で、菜っ葉のスープ。
魚のスープ。
そして、生魚の香草和え。
おいしいけど、ちょっと怖い……。
そうして、ひたすらに食べて飲んで。
いい感じに酔ってくると、「ケーン」と呼ばれる笙が出てきて、「カップ・ラム」という伝統的な唄がはじまったり。
つぼ酒も焼酎もなくなると、ビールが登場し、飲み会は続きます。
朝10時ごろ始まって、すっかりしまいになったのは夕方4時ごろでしょうか。
今回はまだ早かったほうですね。
したたかに酔って寝てしまう人も続出。
最後は、酔っていない面々で、後片付けします。
今年1年、魂が健やかであるように
こんな風に、年始から「魂の儀」に参加させてもらいました。
ビエンチャンなど街で目にする「バーシー」とはちょっと違う部分もありますが、根にある信仰は同じです。
日本でお正月のお祝いはできませんでしたが、これで今年もいい年になりそうです。
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