日本語を学ぶ外国人にとって難しいことのひとつに、「敬語」があると思います。
(日本人でも難しいですね)
それに対して、ラオス語やタイ語に、いわゆる「敬語」はほとんどありません。
でもやっぱり、「こういう場面では、こういう言葉を使うべき/使うべきではない」というものは、あります。
そして、それが如実に表れるもののひとつに……「人称」があります
あまり気にしなくても、外国人だということで許されることも多いですが、ちゃんと理解していて、損はありません。
そこで今回は、「人称」の表現について、ラオス語とタイ語の違いを比較しながら、まとめていきます。
これまでのラオス語・タイ語比較シリーズ
(タイ語・ラオス語を勉強中の人にとっても、参考になるかと思います)
ラオス語やタイ語の人称は相手との関係性
会話の中で、自分のことをどういうか。
あるいは、相手のことをなんて呼ぶか。
まず基本として。
ラオス語やタイ語では、人称は相手との関係性によって変わります。
単純に「私」「あなた」で済めば簡単なのですが…。
ネイティブのように人称を柔軟に変えていくのは、私自身、今でもまだ難しいと感じます。
でも、相手に対して失礼になることもあるので、できるだけ気をつけたいものです。
さらにさらに。
その基本は同じでありながら。
ラオス語とタイ語では、慣例になっている人称の使い方が、けっこう違います。
お互い似ているのに、ラオス語⇔タイ語の学び替えは、なかなかすんなりといかないものです。
それでは、順番に見ていきましょう。
1.同年齢の友人・知り合い
一般的な言い方
ラオス語
私 ຂ້ອຍ コイ
あなた ເຈົ້າ チャオ
タイ語
私 男:ผม ポム、 女:自分の名前
あなた 相手の名前
タイ語では、相手のことは名前で。
女性なら、自分のことも名前で呼ぶことが多いとか。
教科書で習う「私:ฉัน/ดิฉัน チャン/ディーチャン」や、「あなた:คุณ クン」は、日常ではあまり使わないそうな。
耳にするのは、ドラマや歌の中ぐらいなんだそうです。
男の人の「ポム」は一般的だけれど。
親友など、かなり親密な場合
ラオス語
私 ກູ グー
あなた ມືງ ムン
タイ語
私 กู グー
あなた มึง ムン
*ラオス人、タイ人ともに、若い年代はよく使いますが、一歩間違えるとかなり失礼で汚い言葉です。
「俺」「お前」みたいな感じ。
特に女性が使うと、はしたないというか、眉をひそめられる。
外国人は、どんなに親しくなっても使わないほうが無難です。
その他、関西弁的に相手のことを「自分」と呼ぶこともあります。
関西弁と同じで、あまり丁寧な言い方ではありませんが。
ラオス語
ໂຕ トー
タイ語
ตัวเอง トゥア・エーン
例えば、「自分は行くの?(あなたは行くの?)」なら、
ໂຕແດ່ ໄປບໍ່ トー・デー パイ・ボー
のように使います。
2.相手が年上の場合
まず何よりも。
ラオス語の場合、年上に対して「あなた チャオ」を使うと、ちょっと失礼になります。
タイ語でも、年上を呼び捨てにはしないでしょうね。
普通は、次のような人称を使います。
ラオス語
自分 ນ້ອງ ノーン
相手 男:ອ້າຍ アーイ、女:ເອື້ອຍ ウアイ
タイ語
自分 男:ผม ポム、 女:หนู ヌー
相手 พี่ ピー
自分のことは「弟(妹)」、相手のことは「お兄さん(お姉さん)」と呼ぶのです。
さらに年齢差がある場合、
例えば相手が「伯父さん」「伯母さん」くらいの年齢なら、「おじさん ລຸງ ルン」「おばさん ປ້າ パー」と。
両親くらいの年なら、「お父さん ພໍ່ ポー」「お母さん ແມ່ メ―」。
さらに年上なら「おじいさん ພໍ່ຕູ້ ポトゥー」「おばあさん ແມ່ຕູ້ メトゥー」
と相手のことを呼びます。
タイ語でも、その辺の感覚は同じみたいですね。
仕事上の相手であれば、けっこう年齢差があっても、相手のことは「アーイ」「ウアイ」(タイ語なら「ピー」)と呼ぶことが多いです。
名前の前にも「お兄さん」「お姉さん」を付けます。
例えば相手がポーンさんという男性なら、「ອ້າຍພອນ アーイ・ポーン」とか「พี่พร ピー・ポーン」とか。
一方で、親しくなれば、相手が年上であっても「コイ」「チャオ」を使っても大丈夫だったりしますけれどね。
3.相手が年下の場合
ラオス語
自分 男:ອ້າຍ アーイ、女:ເອື້ອຍ ウアイ
相手 ນ້ອງ ノーン
タイ語
私 พี่ ピー
あなた น้อง ノーン
女性に対しては 「หนู ヌー」や「เธอ トゥー」も
私は、自分のことを「お姉さん ウアイ」と呼ぶのにはすごく抵抗があって、大体「私 コイ」で通しています。
なかなか慣れないですね…。
3人称「彼」「彼女」
ラオス語
ລາວ ラーオ
ເຂົາ カオ
ເຂົາເຈົ້າ カオチャオ
目上の人の場合
ເພີ່ນ プン
タイ語
เขา カオ
ラオス語では色々な3人称がありますが、タイ語では基本「カオ」一択のようですね。
男女で呼び分けはしません。
その他+α
その他の「私」という言い方
ラオス語では「私」として、
ເຮົາ ハオ
もよく使います。
この言葉のニュアンスや使い方は、なかなかわかりにくいです。
少しへりくだる感じのときもあれば、互いに仲間意識があるような場面でも使います。
例えば、「ຫ້ອງເຮົາ ホーン・ハオ」というと、「うちらの部屋」って感じになる。
ラオス語では、「コイ」とならんで、非常によく使われますが、どう使い分けるかは……私にはまだ明確にはわかっていません。
タイ語でも、同じ言葉で
เรา ラオ
がありますね。
公式の場での「わたくし」
ラオス語・タイ語ともに「カーパチャオ」を使います。
ラオス語
ຂ້າພະເຈົ້າ カーパチャオ
タイ語
ข้าพะเจ้า カーパチャオ
Mr.やMsにあたる言葉
ラオス語
男:ທ້າວ ターオ
女:ນາງ ナーン
タイ語
男:นาย ナーイ
女(未婚):นางสาว ナーン・サーオ
女(既婚):นาง ナーン
ラオス語で、2人称として女性に「ナーン」と呼びかけることもあります。
タイ語でも同じように、2人称としての使い方もあるようですね。
タイの「LOSO โลโซ」というちょっと古いグループの歌に、「ラオ・レ・ナーイ เราและนาย」っていう、友情を歌った歌があって、このタイトルが、「俺と貴様」みたいな、丁寧ではないけど、「グー・ムン」と呼ぶほど汚くない、男気があるような言い方なんだそうですね。
いい歌です。
目上の人に「チャオ」はちょっと失礼!
重要な部分だけまとめると、
ラオス語でもタイ語でも、目上の人に対しては、使う人称に気をつかったほうがいいと言えます。
ラオス語の「チャオ」は、対等関係のときだけです!
相手が年上なら、最低限、相手に対して「アーイ」「ウアイ」を、
かなり年上の場合は「ポー」「メー」という人称を「あなた」として使いましょう。
そこの感覚はタイ語も同じのようです。
相手が年上なら、とりあえず「ピー」。
ただ、タイ語では、ラオス語の「コイ」「チャオ」にあたる言葉を、日常ではあんまり使わないというのが、意外ですね~。
確かに、男の人の「ポム」はよく聞くけど、「チャン」と「クン」はあんまり聞いたことないな。
タイ語とラオス語の違い。
掘れば掘るほど、興味深いですね。
コメント
すみません。タイ語のポーンさんは、พอนとは書かず、พรと書きます。
ご指摘ありがとうございます。
修正しました。